「当月を含む3か月間の入金予定を、すぐに把握できますか。」
このケースは、静岡のある就労継続支援B型事業所での事例です。
福祉事業所のお金の流れには特徴があります。利用者さんへサービスを提供したあと、翌月の1日〜10日に国保連(国民健康保険団体連合会)へ請求データを伝送します。審査で内容に問題がなければ請求額が確定し、その翌月——サービス提供月から数えて翌々月——の15日〜20日ごろに支払われます(支払日は都道府県の国保連で異なります)。
サービスを提供してから入金されるまで、およそ2か月かかるサイクルです。
一方で、職員の給与や家賃などの支払いは毎月発生します。支払いが先にあり、入金は約2か月あとになる。 この「支払いと入金のズレ」は、福祉事業所の経営における大きな課題の一つです。介護や医療、あるいは納品から回収まで60日・90日かかる掛け売りの事業も、同じ構造を持っています。
そこで、この事業所では次のように考えました。当月を含む3か月間の入金予定と、おおよその出金予定が分かっていれば、必要な手を早めに打てる。 資金繰りが厳しくなる月が見えれば、ファクタリング(確定した請求債権の早期資金化)などを利用して、慌てずに資金をつなぐ判断ができます。
そのための仕組みを、GoHighLevel(GHL)の標準機能で構築しました。

仕組みの中身

別の記事(現場が出欠を入力するだけで、予想請求額が毎日見える)では、「利用者1人×1か月=1枚」の月次カードに実績と金額を持たせる仕組みを紹介しました。今回は、そのカードをどのように管理するかという「レーン」の設計について説明します。
レーンを、請求プロセスに合わせて4本にする
GoHighLevelのパイプライン機能を使い、レーンを4つに分けています。
| レーン | 意味 |
|---|---|
| 実績入力中 | いま提供中の月。日々カードの金額が積み上がる |
| 実績確定 | 月末で締めた。請求前 |
| 請求済 | 請求書を出した。入金待ち(入金予定日つき) |
| 入金済 | 回収完了 |
ポイントは1つです。各カードが金額を持っているため、レーンごとの合計金額をシステムが自動で集計します。 特別な作り込みはありません。GoHighLevelの標準機能だけで実現しています。
すると、この1画面がそのまま資金繰り表になる
架空データを使った画面では、次のように読み取れます。
- 実績入力中: 今月分の提供実績。月の途中でも着地見込みの金額が表示され、サービス提供月から数えて翌々月となる再来月の入金予定
- 実績確定・請求済: 先月分の提供実績。月末の実績確定から請求データ提出を経て、審査で認められた請求額が反映される——これが来月の入金予定
- 入金済: すでに入金を確かめた実績。当月に入る予定は別の列(請求済など)の予定と区別する。これらにより当月を含む3か月間の入金予定となる
つまり、当月の売上として積み上がっている実績から、当月を含む3か月間の入金予定を1画面で把握できます。左側のレーンほど、より先の将来の入金を表しています。
資金繰り表を別に作っているのではありません。請求業務を進めていくと、その結果として資金繰り表も自動的に出来上がる。 そうした仕組みになっています。
出金側は、職員の給与や家賃、水道光熱費など、毎月ほぼ一定です。そのため、おおよその月額を管理しておけば十分です。入金予定を正確に把握できれば、資金繰りの判断に必要な情報は揃います。
厳しい月が「2か月前」に見えるから、打ち手を選べる
当月を含む3か月間の入金予定が見えていると、資金が不足しそうな月を約2か月前の時点で把握できます。その段階であれば、対応策を落ち着いて検討できます。
このケースでは、確定済みの請求債権を早期に資金化するファクタリングを、資金をつなぐ選択肢の一つとして組み込みました。資金ショートが発生してから調達先を探すのと、2か月前から準備したうえで選択するのとでは、判断の余地も、選べる条件も変わってきます。
異常値も、その場で見える
もう1つ、実際に運用して分かった効果があります。
架空データの中に、「体調不良で月の途中から休止している利用者」を1人設定しています。その利用者の当月カードは、通常の月と比べて金額が3分の1以下になっています。レーンの中では、その1枚だけ数字が大きく落ち込んで見えます。
利用者1人の状況変化が、収入へどの程度影響するのか。 集計表で月全体の数字だけを見ていると翌月まで気づかない変化でも、カード単位で管理していると、その日のうちに把握できます(この話は利用者ごとの収入変化を即日把握できる仕組みの別の記事で詳しく書きます)。
利用者さんごとの集計も、同じデータでできる
月次カードは、利用者さんごとの顧客カード(コンタクト)にひも付いています。そのため、利用者さんの画面を開くだけで、その方の月次カードがまとまって表示され、月ごとの給付費の推移や累計も、その場で確認できます。
事業所全体を見るときはレーン。利用者さんごとの状況を見るときは顧客カード。同じデータを、見る視点だけ切り替えて利用しています。 集計のために新たな入力を追加する必要はありません。
カードを動かす時期
カードは、事業所のいつもの段取りに合わせて左から右へ進めます。日々の記録は「実績入力中」のカードに積み上げ、月末で締めたら「実績確定」へ、翌月1日〜10日の伝送で請求を出したら「請求済」へ、入金を確かめたら「入金済」へ動かします。特別な操作は増えません。
出金の月額をまとめておく表の例
資金繰りを完全に把握するためには、入金予定だけでなく、毎月発生する出金の正確な把握が欠かせません。この事業所では、入金側がGoHighLevelのレーンによって自動的に見える化されているため、出金側については毎月の定例支出をあらかじめ整理し、全体のバランスを確かめています。
出金管理を複雑にする必要はありません。福祉事業所において毎月確実に出ていく費用項目は、おおむね決まっています。以下のような項目と毎月の月額目安をあらかじめ書き出しておき、入金予定の総額と比較できるようにしておくだけで十分です。
- 人件費(給与・賞与・社会保険料など):事業所運営の中で最も大きな割合を占める支出です。毎月の固定額に加え、変動がある手当なども含めて確実に見込んでおきます。
- 地代家賃(事業所や作業所の賃料など):毎月決まった期日に確実に引き落とされる固定費です。複数の拠点がある場合は拠点ごとに分けて管理します。
- 水道光熱費・通信費・消耗品費などの運営費:日々の活動を維持するために必要な実費です。季節による変動を考慮して少し余裕を持たせた金額を設定しておきます。
- 利用者工賃(就労継続支援B型における賃金・工賃の支払い):B型事業所において非常に重要な毎月の支出です。売上の入金サイクルと工賃の支払日との兼ね合いをここでしっかりと意識します。
これらのおおよその月額出金額をあらかじめ把握したうえで、GoHighLevelの画面に表示される3か月先までの入金予定額とつきあわせます。月の差額がプラスであっても、手元の預金残高、月の途中の支払いのタイミング、入金の遅れなどにより不足が生じる場合があるため、残高と支払いの時点を含めて確認します。その上で、特定の月に大きな出金が重なったり、利用者の休止などで一時的に入金が細ったりする月がある場合には、次のステップで早めに対策を検討します。
資金が細る月が見えたときに確かめる順番
3か月先の入金予定と毎月の出金予定を突合した結果、もし資金が一時的に細る月が発見された場合、慌てずに冷静な判断を下すための「確かめる順番」が重要です。静岡では15日〜20日ごろの支払いなどを見据え、約2か月前の段階で予兆をキャッチできているため、以下の手順に沿って一つずつ確認を行います。
- 入金遅延や請求漏れがないかの確認:まず、GoHighLevelのパイプラインや顧客カードを開き、入力漏れや請求データの伝送漏れ、記載ミスの有無を確認します。システム上で数字が正しく反映されているかをチェックし、本来入るはずの売上が落ちていないかを真っ先に確かめます。
- 一時的な支出の先送りや調整の検討:次に、事業所の運営に大きな支障が出ない範囲で、今すぐ支払わなくてもよい経費の支払いタイミングを調整できないかを確認します。業者への支払いや備品の購入などを少し後ろにずらすことで、その月の資金ショートを回避できるケースがあります。
- 既存のキャッシュと予備資金の状況確認:手元の預金残高や、万が一のときに動かせる流動資産がどれくらいあるかを正確に把握します。2か月前に見えているからこそ、この段階で冷静な残高確認が可能です。
- 外部の資金調達手段(ファクタリング等)の検討:上記までの調整では乗り切れないことが事前に判明した場合に初めて、ファクタリングなどの資金調達手段を検討のテーブルに乗せます(※公式なファクタリングサービスとの連携や仕様については個別の事業者ごとに確認が必要です)。期限に追われないため、冷静に条件を吟味できます。
このように、問題が表面化する前に順序立てて確認を行うことで、突発的な資金不足による経営の混乱を防ぐことができます。日々の記録がそのまま経営判断の土台となるため、請求業務と管理会計の効率化を進めることが安定経営に直結します。
ファクタリングを選ぶ前に確かめる点
資金をつなぐ方法としてファクタリング(確定した請求債権の早期資金化)を考えるときは、引かれる手数料と、契約の条件(続けて使うことが前提になっていないか、解約の条件はどうか)を、契約の前に自分の目で確かめます。2か月前に見えていれば、複数の調達先を比べる時間があります。
この仕組みで何ができるようになったか

- 当月を含む3か月間の入金予定を、画面を開くだけで把握できる
- 月の途中でも当月の着地見込みが分かる。 月末の締めを待つ必要がない
- 利用者さんごとの推移や累計も、同じデータから確認できる。 入力は増えない
- 資金が細る月を2か月前に把握できる。 ファクタリングなど、資金をつなぐ方法を前もって選択できる
- 拠点が増えても、同じ仕組みをそのまま展開できる
この仕組みも、架空データ(15名×4か月・60枚のカード)を使って実際に動作検証を行っています。実在の利用者や取引先のデータは一切使用していません。
(マンガは右上から左へお読みください)

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